12994ab0.jpgモノクロ映画の傑作の大半は僕がカテゴライズした1954年までに集中しているが、一つだけ例外がある。またこの時代を含めて製作日数や予算にかけてもずば抜けて短時間で低予算で作られた映画でもある。(制作費は約35万ドルという超低予算、撮影日数はわずか2週間ほどの短期間で製作された。)すべてにおいて特例中の傑作。それが「12人の怒れる男」原題「12Angry Men」である。

正しくは11人の怒れる男ともいえる。なぜなら一人冷静沈着に陪審員の中で何が事実とされるか見極めている人物がいるからだ。陪審員8番(ヘンリー・フォンダ演じる)である。
法廷での「疑わしきは罰する」という固定概念を払拭して「疑わしきは罰せず」という信念に基づき11対1という「有罪 対 無罪」の逆境からストーリは始まる。

神に代わって人が人を裁く難しさ、真実を読み取る難しさを感じると同時に人間には大きく12人のタイプがいること「まさに 1ダースの人間」たちが時間とともに変わり行く心理面を映し出している。本作品で監督デビューを果たしたシドニー・ルメットは、1957年度の第7回ベルリン国際映画祭金熊賞と国際カトリック映画事務局賞を受賞した。同年度のアカデミー賞で作品賞を含む3部門にノミネートされたが、『戦場にかける橋』に敗れ、受賞には至らなかったが現時点で見ればその評価は大きく「物語の進行」と同様、覆されるであろう。

映画の大半は陪審員会議室にて撮影されている。いわゆる密室に閉じ込められ観る者もこの
閉ざされた空間の中に引き入れられいつのまにか「もう一人の陪審員」となるはずだ。これこそ法廷ミニマリズムの極地でありこれ以上のミニマリズムはありえないほどミニマムである。しかし描かれたものは12人の心情の移り変わりや窓の外に見える「大雨」「暗雲」ともに刻々と変わり実に壮大なものである。すべての陪審を終えて陪審員会議室を出た12人が思い思いに法廷の外へ。気づけばあの大雨は過ぎ去り夕刻とはいえ夕陽射しが差し込んでいるようだ。陪審員8番と9番が初めて名前を言い合い握手を交わす。もの静かで何ものにも変えがたい名エンディングシーンである。