8日付のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載される研究報告の中で研究者らは、腫瘍の遺伝子構造は同じサンプルでもいくつもある場合もあることを明らかにした。がんのオーダーメード医療での課題を示す研究成果だ。

 この研究は、患者の腫瘍の単一のサンプルだけの分析―現在のやり方だが―では、病気の経過に影響する重要な遺伝子の変異を見逃す可能性があることを明らかにした。これは翻って言えば、腫瘍に影響する変異をターゲットとする薬を見つけるというオーダーメード医療の研究を妨げる可能性があるということだ。

 研究者らは、こうした腫瘍の遺伝的な研究が、がん治療を変えられるという期待をしぼませるものではない、と指摘しているが、オーダーメード医療がこれまで以上に複雑になり、費用もかかるものになる可能性はある。

 論文の共同執筆者であるAndrew Futreal氏は「これはがく然とさせられる成果だ」と述べた。同氏は最近まで英ウェルカム・トラスト・サンガー研究所でがん遺伝子・ゲノム部門のディレクターを務めていた。

 NEJMのダン・ロンゴ氏は論文に付随した論説の中で、論文で指摘された腫瘍の多様な遺伝子構造はオーダーメード医療推進論者の間に見られる「過度の楽観論」と対照的であると示唆した。また、遺伝子の特徴を基準にして腫瘍と治療を組み合わせることが一部で言われているほど単純ではないことを意味していると指摘した。

 ロンドン・リサーチ・インスティチュートのMarco Gerlinger、チャールズ・スワントンの両氏を中心に行われたこの研究で科学者らは、4人の腎臓がん患者から腫瘍組織を採取した。DNA塩基配列決定法などの技術を使って、原発腫瘍から採取したサンプルの9カ所、腫瘍が転移した部位のサンプルの3カ所の遺伝子プロファイルを得た。

 研究では、検出された128の遺伝子変異のうちすべての場所にあったのは約3分の1にすぎないことが分かった。加えて、ある単一の腫瘍の中に良好な予後に関連した遺伝子シグネチャーと予後不良に関連した遺伝子シグネチャーの両方があったという。

 さらに、原発腫瘍と転移部分の遺伝子変異には相当な相違があった。これは患者のがんが進行する中で、追加的な生体検査が必要なことを示唆している。Futreal博士は、1回の生体検査では「遺伝子変異と実際に目にしている腫瘍の状態との間のつながりを見逃す可能性がある」と語った。

 ヒューストンのM.D.アンダーソンがんセンターのジェニファー・リットン氏は、この研究結果は、がん専門医や研究者が以前から気づいていたことを詳しく研究したものだと述べた。同氏はこの研究には関わっていない。

 また、研究者らは、今回の研究は1つのタイプのがんだけを対象にしているため、他のがんではどの程度遺伝子の変化があるのかを知るにはもっと研究を重ねる必要があるとしている。