
(注:1909年、イタリア出身の自動車技術者、Ettore Bugatti:エットーレ・ブガッティがアルザス(当時ドイツ領)に設立した自動車会社。)
しかし1920年のパリ社交界の女性にはこの名がとんでもないセンセーショナルを巻き起したのである。
「何か自動車部品の幌を留める部品が付属したバッグがHermèsから出たそうよ。」
「今までの大変な開閉がジッパーで簡単に開け閉めできるのよ」
社交界でそれはそれは大変な盛り上がりだったという。
それまでのバッグといえば革がフラップされ錠、錠前で開閉が一般的である。
自分の妻から「便利なバッグ」の要望を受けていたHermès 三代目社長 Emile-Maurice Hermesは第一次世界対戦の中カナダで自動車の幌(ほろ)を留めるために使われていたジッパー(ファスナー)を見て閃いたのである。
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その開口部位を強調するために最大長を示す「半月型・半円型」を採用。これはある意味画期的なファスナーというものが曲面に使用できることを示すものだった。
それまでの鞄といえばオータクロアを代表としてやや四角ばった鞄が主流だったものを(四角しかある意味作れなかった、ベルト&錠ゆえに・・・)ある意味革新的にデザインしたわけだ。
またファスナーを開け閉めしなくとも簡単なハンケチや書類を入れれるようにフロントポケットをつけた。

ネーミングの由来は“走る宝石”と称えられた当時自動車レース:特にフランス・グランプリで連戦連勝する車会社の名前「Bugatti 」をフランス流の洒落で選んだ。実は「Bugatti 」前部にあるラジエターグリルの形(半月型・半円形)に似ていることから、その名がついたとされる。勿論、名前を借りるぐらいなので(Hermesはこのようなオマージュネーミングはケリー、バーキンなど大好きである。)当時の「Bugatti 」社長:Ettore BugattiとEmile-Maurice Hermesは蜜月にあった。(元来の蜜月の根源はEttore Bugattiが愛車ブガッティ・ロイヤルのためにテーラーメードのスーツケースをエルメスに特注したことに始まったらしい。)
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「Bugatti 」という名前の革新的なバッグの完成である、時は1920年。
Emile-Maurice Hermesはこの自分の妻のためにデザインし完成した「Bugatti 」型バッグを殊更に喜び、「Bugatti 」社長婦人にもプレゼントしたのはいうまでもない。
この栄えあるエミール夫人へのpresentは今もエルメス・フォーブル・サントノールのミュゼと呼ばれる三代目エミールの書斎空間にひっそり所蔵されている。素材はカーフ、色は黒である。
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おおいに気に入ったEttore Bugatti氏も
「フランスの当社でも販売させるよ」と喜んだ。
Franceの「Bugatti 」社でもそれから数年このバッグをHermesに発注して販売していた。先に触れたネーミングも両社の蜜月な関係から本来呼称として呼ばれていたが一般にも「Bugatti modèle 」(ブガッティモデル)として親しまれたのである。
この辺の事情がその後諸事情によりどのように影響したのかは定かではない。HermesのバッグをやはりHermes店で販売することに重要視したため、愛されたネーミングを変更せざるを得なくなったというのが事実である。
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新ネーミングの名は「Bolide」1923年の変更である。Bolide:とは「流星」を意味する。
Hermesは2005年に満を持してついに「85年ぶり」にこのBugatti型を「bolide1923」と名称を変えて再復刻したのである。
この話には長い長い後日談がある。
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世界で最も名立たるラグジャリー・ブランドBugattiとHermesはコラボレーション・プロジェクトの特別モデルとして「Bugatti Veyron Fbg par Hermes」を2008年3月4日ジュネーブ・オートサロンにて発表。Bugatti社は、新たにIndividualisation Programme(個性化プログラム)を始めその1つが今春ジュネーブのモーターショーで発表されたエルメスとブガッティのインダストリアル・デザイン・プロジェクト「Bugatti Veyron Fbg par Hermes」である。Bugatti社のたっての願いにHermesは即承諾したという。 実に85年ぶりの両社のコラボが実現したわけである。当然そのフロントにはBugattiの象徴であるその「Bolide」型(笑)のラジエーターグリルは受け継がれて・・。
実に長い年月を経た「恩返し」でもあった。
故にこの話を知っていた僕は姉にも妻にもBolideではなくBolide1923=Bugattiを薦めている。
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女性用のバッグに初めて「ファスナー」を登用してその後、婦人服にも使われることとなった礎をこの「Bolide1923」に見ることができる。
工業用のファスナーを世界で初めてバッグに使ったエルメスの歴史。
エルメスは2001年にウィンドウdisplayに「ZIPPER」を彩った。
ZIPPERが開かれ、その後いかにアパレル文化に影響を与えた道を開いたか、称える言葉は尽くしがたい。
