手縫いのサルトなら王道はブリオーニ。
そして派生のキートン、

忘れてならないのが匠のアットリーニ。

チェザレ・アットリーニのジャケットは、その知名度でありながら100人弱のサルトが集まる比較的小さなファクトリーで作られています。Kiton キートンのファクトリーが350人ほど、brioni ブリオーニが1500人。

しかし何よりチェザレ・アットリーニの魅力は手縫いを中心としたその仕立てにあります。


全体的なシルエットは特別タイトなものではありませんが、ウエストは滑らかに絞られ、身体のラインを強調してくれます。構築的な印象はありませんが、だからといって崩し過ぎてもいない。最近は一枚仕立てのジャケットが多く、さらにはカーディガンのようにラフな極端に軽快さを追求したジャケットも見られます。ナポリ仕立ての名の下にテーラードジャケットらしさの失われたアンコンジャケットも作られています。


これは時計や車と似ているデザイン学であります。

特別にとがっていることもなく、力が入っていない。ウエストはまろやかなものでタイトシルエットを好みません。
パテックフィリップやランゲなどに共通するデザイン学じゃないでしょうか


しかしチェザレ・アットリーニは軽快さを追求しながらも、あくまで身体を美しく魅せるシルエットを保ち続けている。ブリティッシュトラッドのスーツをベースに変革をもたらしたアットリーニだからこそブリティッシュスーツに敬意を払い、最低限のシルエット要素は断固として譲らないとしているのかもしれません。

しかしチェザレ・アットリーニはあくまで上品に、生地のドレープ感を生かした波打つ海面のような仕上げです。チェザレ・アットリーニのジャケットやスーツは特別な別注品でない限り、概して薄めの肩パットと、ふんわりと柔らかに寄せたマニカ・カミーチャの肩になっていますね。



チェザレ・アットリーニのジャケットはもちろんバルカポケットとなっていますが、重要なのはそのバルカポケットの存在意義です。

ただ彼の作り出すジャケットの前身頃が立体的で丸みを帯びていたために、必然的にポケットが曲線的である必要があったのです。今日ではバルカポケットの名が一人歩きしていますが、平面的なジャケットであればバルカポケットはむしろ無駄でしょう。チェザレ・アットリーニの美しいジャケットだからこそ、このような丸みがポケットに必要なのです。

実のところ、現在のスーツの語られ方はこんなものです。

「クラシコ・イタリアモデル、本切羽、バルカポケット仕様、AMFステッチ……」

しかしこういったディティールは何も、スーツやジャケットに先行するものではありません。ただひたすらに良いジャケットを求めていくと、そういったディティールがついてくるのです。

上品さを崩さないギリギリの線で主張をする、ダブルステッチもナポリのブランドであるアットリーニならではの個性ですね。


ダブルステッチもまたナポリ仕立てのディティールと言われていますが、チェザレ・アットリーニのダブルステッチは非常に表情豊かで、AMFとは違った人間らしさを感じます。またボタンホールについては、ぎっしりと目の詰まった仕上げがため息の出るほど美しい。
裏面から見ると、表面の美しさのためにどれほどの苦労が費やされているかが分かります。また写真では分かりにくいですが、ラペル裏にはロールを美しくするための八刺しが丁寧になされています。

あらゆるところが手縫いにて仕上げられたアットリーニのジャケットは、マシンメイドには出すことのできない、やわらかな着心地と、丸みを帯びた柔らかく自然な風合いを実現しています。
そして、ジャケットを脱いだときに見えるその手作り感溢れる縫い目に魅力を感じてしまうのが、ジャケット中毒の末期症状です。