患者は老いていた。
一人でベッドからかかとで立ち上がって
なんとかベッドわきにある蛍光ペンをとろうとしていたが
すでに3日間、人生晩年 はじめてひとりで やりきれない日が続いていた。
失った親指の足をかばっていた
ぎゅっと手に掴むメモには 娘ユリの携帯電話番号がしたためられている
コロナで第二赤十字病院は家族の面会を禁止にして久しい。
妻フミさんがどんなときも手取り足取り生活を支えてきた。
あれほど渋っていた 指切断の手術をようやく 孫むすめの
「 じいじ 手術をしたらご褒美あげるよ 」のひとことで決定した。
まさか 術後に ひとりで いることが 手術をすることよりも辛いことなのかと思い知った。
気づけば 娘ゆりに電話をするか 妻フミさんに電話をするか
もはや どっちに電話をしているのかもわからないようだ
「 ゆり いまどこにいる 」
とぼくらの自宅に電話を入れて発するお決まりのフレーズは
まだまだ可愛い
「 おれは いま どこだ 」
と まるで フランスの詩人のようなフレーズは確実にヤバイのだ
「 かわいいお気に入りの看護師はできた ? 」
というわたしの気晴らしの質問にも全く動かない
そんなことより 妻フミさんの様子もおかしいのだ
「 心配で心配で 心配でしょうがないのよ 」と
二人が何十年珍道中の旅行好きで世界中巡ってきたことは知っているが何より定番ともいえる口論は
どんな虫も食わないぐらい四六時中。 彼らが口論しないときは 例えば せせらぎ街道の新緑がひろがる絶景、 紅葉街道、 いわな あまごを食らう時 かなり限られているからだ。
あのんさんという奇跡的な誕生が無い時代、
われわれは いつもこのように二人からたぶらかされていたのだ
「 もう子供なんてなくても こうやって私たちと旅行をして老いていけばいいのよ 」
ぼくらは なんともいえぬ白い恐怖を感じ、不妊治療にまい進したのはいうまでもない。
そんな彼らが ともに いま人生初めての4日会えない状況下で
「 愛おしい 」 「 心配で不安だ 」と 言い合う事態
ふーん 愛とは なんであろうね 情でもなく 依存でもなく・・・
ただただ 美しいと いっておこう
羊群れからはずれて 指を失った 老いた羊は
大事なものを見つけたね 「 愛 」を
愛を見つけて群れに戻ったら正しく歩くことなりそうだねと伝えた
老いた羊は 「 うまいことふざけて 」
とぼくをたしなめた
(アーネストヘミングウェイ:老人と海をトリビュートして)
一人でベッドからかかとで立ち上がって
なんとかベッドわきにある蛍光ペンをとろうとしていたが
すでに3日間、人生晩年 はじめてひとりで やりきれない日が続いていた。
失った親指の足をかばっていた
ぎゅっと手に掴むメモには 娘ユリの携帯電話番号がしたためられている
コロナで第二赤十字病院は家族の面会を禁止にして久しい。
妻フミさんがどんなときも手取り足取り生活を支えてきた。
あれほど渋っていた 指切断の手術をようやく 孫むすめの
「 じいじ 手術をしたらご褒美あげるよ 」のひとことで決定した。
まさか 術後に ひとりで いることが 手術をすることよりも辛いことなのかと思い知った。
気づけば 娘ゆりに電話をするか 妻フミさんに電話をするか
もはや どっちに電話をしているのかもわからないようだ
「 ゆり いまどこにいる 」
とぼくらの自宅に電話を入れて発するお決まりのフレーズは
まだまだ可愛い
「 おれは いま どこだ 」
と まるで フランスの詩人のようなフレーズは確実にヤバイのだ
「 かわいいお気に入りの看護師はできた ? 」
というわたしの気晴らしの質問にも全く動かない
そんなことより 妻フミさんの様子もおかしいのだ
「 心配で心配で 心配でしょうがないのよ 」と
二人が何十年珍道中の旅行好きで世界中巡ってきたことは知っているが何より定番ともいえる口論は
どんな虫も食わないぐらい四六時中。 彼らが口論しないときは 例えば せせらぎ街道の新緑がひろがる絶景、 紅葉街道、 いわな あまごを食らう時 かなり限られているからだ。
あのんさんという奇跡的な誕生が無い時代、
われわれは いつもこのように二人からたぶらかされていたのだ
「 もう子供なんてなくても こうやって私たちと旅行をして老いていけばいいのよ 」
ぼくらは なんともいえぬ白い恐怖を感じ、不妊治療にまい進したのはいうまでもない。
そんな彼らが ともに いま人生初めての4日会えない状況下で
「 愛おしい 」 「 心配で不安だ 」と 言い合う事態
ふーん 愛とは なんであろうね 情でもなく 依存でもなく・・・
ただただ 美しいと いっておこう
羊群れからはずれて 指を失った 老いた羊は
大事なものを見つけたね 「 愛 」を
愛を見つけて群れに戻ったら正しく歩くことなりそうだねと伝えた
老いた羊は 「 うまいことふざけて 」
とぼくをたしなめた
(アーネストヘミングウェイ:老人と海をトリビュートして)
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