抽象とは何か──モンドリアンと古代ギリシャのメアンダーをめぐって

抽象とは何か。モンドリアンはこの問いに対し、色と線による極限まで純化された構造を提示した。水平と垂直。赤・青・黄の三原色。彼のキャンバスの上には、もはや自然の模倣も感情の爆発もない。あるのは、厳密に配置された線と色のリズムだけである。そこに私たちは、精神の奥深くに響く何か──言葉にならない秩序や永遠性を感じ取る。

一見すると、これは20世紀的な「革新」に見えるかもしれない。しかし、モンドリアンの抽象的感覚は、実のところ人類の古代的な美意識と深くつながっている。それを象徴するのが、古代ギリシャに見られる「メアンダー文様」だ。

メアンダーとは、川の流れのように折れ曲がりながら連続する幾何学文様のこと。多くのギリシャ神殿や陶器に使われたこの装飾は、単なるデザインではない。始まりと終わりのない流れは、生命の循環、不滅、そして秩序を表すと考えられていた。つまり、そこには「見える形を超えて、精神的な真理を視覚化しようとする意図」がある。

モンドリアンもまた、目に見えるものを描くのではなく、目に見えない構造の“真理”を描こうとした。彼にとって自然は、葉や木や雲といった形そのものではなく、それらを形作っている背後の法則性にこそ意味があった。だからこそ、彼は自然から離れ、「直線と色彩」という純粋な視覚言語によって、世界の根源的秩序を再構築したのである。

このように見ていくと、モンドリアンとメアンダー文様の間には、形式を越えた精神的親近性が浮かび上がってくる。

双方とも、具象を捨て、視覚的要素のリズムや構造によって意味を紡ぐ。

双方とも、「秩序」や「永遠性」といった抽象概念を、視覚芸術として具現化する。

双方とも、人間を超えた普遍的な原理への信仰を前提としている。


したがって、抽象とは単に「何も描かないこと」ではない。それはむしろ、目に見える具体的な世界を一度壊し、その奥にある見えない構造や本質を、より純粋な形式で再構築する営みなのだ。

モンドリアンの抽象画を前にしたとき、私たちは驚くほど静かな緊張を感じる。それは古代の神殿の柱のリズムや、メアンダーの永遠の反復に通じる精神的感覚である。つまり、抽象とは──古代の記憶と、未来への秩序の予感とをつなぐ、視覚の祈りなのかもしれない。